有竹教授に聞いてみた#2

睡眠の質を上げる方法とは?
寝酒・ひつじ・いびきの通説を
睡眠の専門家が解説
厚労省「睡眠ガイド」
研究分担者インタビュー

毎日使う寝具だからこそ、感覚的な「心地よさ」だけでなく、科学的な裏付けが求められる時代が来ています。
厚生労働省の健康づくりのための睡眠ガイド2023作成にも参画され、
睡眠科学の第一線で活躍される有竹清夏教授をお招きし、今回は睡眠に関するあらゆる疑問に答えてもらいました。

埼玉県立大学 教授・博士 有竹 清夏

この記事の監修者

埼玉県立大学 教授・博士有竹 清夏

東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業、同大学院博士後期課程修了。博士(保健学)。米国認定睡眠検査士(RPSGT)。日本睡眠学会幹事、日本時間生物学会評議員、日本睡眠検査学会評議員などを務める。国立精神・神経医療研究センター研究員、日本学術振興会PD、ハーバード大学医学部リサーチフェロー、早稲田大学、東京大学を経て現職。厚生労働省研究班の研究分担者。不眠の時間認知機能、運動の放熱および睡眠にもたらす効果、女性の更年期および月経周期と睡眠問題の関連について研究を行う。

寝る前の習慣で 睡眠の質は変わる

良い睡眠のためにはお風呂とシャワー、どちらが良いですか︖

間違いなく良いのはお風呂に入り全身浴をすることです。

全身浴が翌日の日中の眠気を軽減し、睡眠を深くすることが調査でも実証されています。
シャワーがダメというわけではなく、 忙しくてシャワーだけですます方は、浴び方に工夫をしましょう。ただ洗い流すだけでなく、全身に温熱刺激が行き渡るよう、まんべんなくシャワーを浴び、身体に水が当たる面積(表面積)を増やすことを意識してください。こうするとシャワーでも全身浴に近づけることができます。また、放熱に重要な役割を果たす足先をしっかりお湯で温めてあげることも有効です。浴槽にお湯を入れていない場合でもその中でシャワーを浴びることで足先を温めることができます。

入浴のタイミングはいつが理想的ですか?

理想的なタイミングは「就寝の1.5〜2時間前」です。

お風呂で体を温めて一度深部体温を上げることで、その後、1.5〜2時間かけて体温が下がっていく落差を利用し、スムーズな入眠と深い眠りを引き出すことができます。

温度は38~40℃程度のぬるめのお湯が、心臓や循環器系への負担も少なく、自律神経をリラックスさせるためにおすすめです。

カフェインは寝る何時間前まで摂っていいですか?

夕方以降(15時〜16時以降)は基本的にカフェインを控えることをおすすめします。

早いと感じるかもしれませんが、カフェインは体内に長く留まります。夕方以降に摂取すると、夜間の睡眠にダイレクトに悪影響を及ぼし、寝付けなくなったり睡眠が浅くなったりします。
1日の摂取量としても、何杯というより「カフェインの総量(摂取量)」に注意し、エスプレッソやエナジードリンクなどの高濃度なものは特に控えるのが良いでしょう。

パジャマ?浴衣?寝るときは何を着るのがおすすめですか?

いちばんのおすすめは、ご自身が着心地が良いと感じ、締め付けや圧迫感のない素材・サイズのものです。

吸湿性や通気性が高く、体温調節を妨げないものが理想的です。
最近では、リカバリーウェア等も流行っています。血流を良くして疲労を回復させるという考え方は、運動後や日中の疲労回復としての血流促進には非常に重要です。
しかし、睡眠中で考えると常に体を温め、血流を促進し続ける衣類や寝具は、深部体温を下げて脳や体をしっかり休ませるという睡眠本来の目的から考えると、かえって眠りの質を下げてしまう懸念があります。電気毛布を一晩中つけっぱなしにするような状態がこの状態で、体を温める機能を持つウェアや機器は、寝始めに使用して放熱を促すために使い、その後は自然に体温が下がっていくようにタイマー等で調整されるのが、睡眠の観点からは望ましいと思います。

寝室の環境を整えて 眠りを深くする

夏のエアコン(冷房)は一晩中つけっぱなしでも良いですか?

25〜26.5℃程度の冷えを感じない適切な温度で、朝まで稼働させ続けるのが望ましいです。

夏の夜、エアコンのタイマーをセットして途中で切れると、室温が上がって目が覚めてしまい睡眠が分断されることがあります。目が覚めるよりは、適切な温度で一晩中つけておく方が良い睡眠につながります。
頭寒足熱という言葉がありますが脳の温度(頭部)を少し冷やすことは、ノンレム睡眠を深め、脳をしっかり休ませるために効果的です。ただし、部屋の温度を21〜22℃などの極端な寒さに設定し、冬用の分厚い羽毛布団をかぶって寝るような極端な方法をとる必要はありません。首や体は冷えすぎないように布団で守りつつ、頭部を涼しく保つ工夫(通気性の高い枕など)をすれば十分です。

スマートフォンやパソコンなどのブルーライトカットは良い睡眠に必要ですか?

ブルーライトをカットすることは一定の効果があります。

ですが、それ以上に重要なのは「見ているコンテンツの内容」です。ブルーライトをカットして画面を暗くしていても、SNSや動画、ゲームなどのコンテンツに熱中して脳が興奮してしまっては、結果的に眠れなくなります。 良い睡眠のためには寝る前はなるべく脳を興奮させない、刺激の少ないコンテンツや、なんとなく眺めてそのまま寝落ちできるようなものに留めるなど、メリハリをつけることが大切です。

寝るときに聴く「音」で効果的なものはありますか?

音に関しては、特定の周波数を聴くことで寝つきが良くなるというエビデンスがあります。

例えば、左右の耳からわずかに周波数の異なる音を聴かせるバイノーラルビートなどが挙げられます。モーツァルトのようなクラシック音楽や、ゆったりとした人の声(特定の周波数特性を持つ声)なども、自律神経(副交感神経)に良い影響を与え、リラックス効果を高めて睡眠をサポートすることがわかっています。
最近はスマートフォンでもそのような音を集めたコンテンツもありますので試してみてはいかがでしょうか。

その睡眠の常識、本当? よくある通説を専門家が検証

お酒を飲むとよく眠れるというのは本当ですか?

「アルコールを飲むとよく眠れる」というのは大きな間違いです。

確かにアルコールには一時的に寝付きを良くする効果があるので、寝付き自体は良く感じられるかもしれません。しかし、体内でアルコールが分解される過程で眠りが分断され、夜中に何度も目が覚めてしまう中途覚醒が大幅に増加してしまいます。さらに利尿作用もあるので、夜中に尿意で目が覚めやすくなります。このように睡眠の質は著しく低下します。
日本人は睡眠のためにお酒を飲む割合が国際的なデータからも非常に高いという特徴がありますが、寝酒は睡眠の質を著しく下げてしまいますので、控えていただくのが良いでしょう。

眠れないときにひつじを数えるのは効果がありますか?

科学的には、ひつじを数えることに睡眠導入効果はほとんどありません。

数え続けることで頭が冴えてしまうことがありますので、おすすめはできません。
良く眠れるためにひつじを数えるよりおすすめしたい効果的な方法は、寝室の光環境を整えることです。 具体的な方法は、夜になったら白っぽい照明から、温かみのあるオレンジ色の光に変えることです。こうすることで睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を高めることができます。メラトニンがしっかり分泌されると、深部体温が下がりやすくなり、自然と眠気が訪れます。逆に、朝は太陽の光を浴びることで、メラトニンの分泌が抑制され、体がすっきりと覚醒します。

いびきをかいて寝ているのは、熟睡している証拠?

いいえ、熟睡できていない(睡眠中に気道が圧迫されている)サインです。

いびきは、睡眠中に喉の空気の通り道(気道)が狭くなり、そこが振動することで発生します。これは呼吸がスムーズに行われていない証拠であり、病的レベルの睡眠時無呼吸症候群(SAS)が潜んでいる可能性もあります。いびきをかいているときは、本人は気づいていなくても脳や体が休まっておらず、熟睡感を得られにくくなっているため注意が必要です。

眠れない・ 目が覚めるときの対処法

布団に入ったけど眠れないときはどうすれば良いですか︖

眠れなくてあせるかもしれませんが、眠れないのに無理にベッドの中に留まり続けるのは逆効果ですので注意してください。

理由としては、「ベッド=眠れない不快な場所」という印象が脳に刷り込まれてしまい、さらに眠れなくなってしまうためです。
もし15〜20分経っても眠れないと感じたら、一度ベッドから出て、薄暗い部屋でストレッチをしたり、退屈な本を読んだりして、再び眠気が訪れるのを待ってからベッドに戻るのがおすすめです。

歳をとり朝早く目覚めますが問題ないでしょうか?

高齢者の方が朝早く目が覚めてしまうのは自然な生理的変化ですので問題ありません。

ただし、注意しなければならないのは、眠れないのに寝ようとしてベッドの中にい続ける時間=床上(しょうじょう)時間が長くなりすぎてしまうことです。
私たちの共同研究でも明らかになっていますが、高齢者の方が床上時間を長く取りすぎると、かえって睡眠の休養感が低下し、死亡リスクを高めてしまうというデータが出ています。
若い方の場合は、睡眠時間が極端に短くて休養が取れていない人の死亡リスクが高いのですが、高齢者の場合は、「眠れていないのにベッドの上にいる時間が長すぎる人」のリスクが跳ね上がります。ですから、目が覚めたら無理に布団の中にい続けようとせず、ベッドから出て日中の活動に移る、あるいは昼寝(短時間の仮眠)などで調整されるのが健康を維持するために非常に大切です。

女性は年齢や更年期によって睡眠の悩みが変わるというのは本当ですか?

本当です。女性はホルモンバランスの変動により、一生を通じて睡眠障害を抱えやすいタイミングが何度も訪れます。

更年期女性への睡眠アプローチは、現在私が特に力を入れて取り組んでいる研究テーマの一つですが、6割以上の方が睡眠の悩みを抱えています。
これは女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少や乱れが大きな原因と考えられます。よく知られている「ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)」だけでなく、深部体温や放熱のリズムそのものが、若年女性とは大きく異なることが私たちの研究でもわかってきました。
更年期になると「深い睡眠が減少する」と一般的には言われていますが、一部の文献では「深い睡眠はキープされる」という説もあり、実際のところどうなのかを今、一晩の中での詳細な変化を含めて調べているところです。もし放熱がうまくできていない状態なのであれば、運動や適切な入浴、温熱療法によって一時的に体温を上げてから、上手に放熱を促してあげることで、不眠の改善効果が期待できると考えています。

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